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大分家庭裁判所 昭和56年(少)521号 決定 1981年4月25日

〔参考〕本件に関しては、「改訂少年執務資料集(二)の上」法四二条七問及び法四五条一五問参照

少年 S・S(昭三六・四・二八生)

主文

この事件について審判を開始しない。

理由

一  当裁判所は、少年にかかる別紙非行事実(一)(二)記載の各保護事件につき昭和五六年三月一〇日いずれも罪質情状に照し刑事処分相当と認め逆送決定をなしたところ、検察官は(二)の事件につき同月一九日付で大分地方裁判所に公訴を提起したが、(一)の事件については「公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑がない」との理由で当裁判所に逆送決定書を添付して一件記録を送付してきた。

本件は上記(一)の再送致事件である。

二  検察官は、再送致の理由として、

(イ)  本件被害品である薬品類については、それらが○○病院検査室に保管されていたものか否か同病院の資料では不明であり、

(ロ)  少年及び少年に教唆されて窃盗の実行行為に及んだ本犯の自供の外には、被害品の数量等を確定する証拠がないうえ、

(ハ)  少年と右本犯との間では犯行日時のくい違いも認められ、

(ニ)  右窃盗本犯が所持していた薬品についても前記○○病院が保管していたものかどうかの確定ができないので、

公訴の維持は困難であるというのである。

三  しかしながら、

(ロ)の点については、司法警察員作成の昭和五六年二月一日付領置報告書(謄本)、A子の司法警察員宛同年一月三一日付任意提出書(謄本)、司法警察員作成の同日付領置調書(甲)(謄本)、A子と少年の司法警察員及び検察官に対する各供述調書(謄本)によると、本件被害品は本犯であるA子(昭和三七年一月七日生)の当庁昭和五六年少第二五二号窃盗、恐喝未遂事件における別紙押収物目録(昭和五六年押第四九号)記載の符号一ないし一〇及び一二の合計一一点であることが認められ被害品の数量も確定しているし、

(イ)及び(ニ)の点については、上記各証拠の外B作成名義の被害届(謄本)、同人及びC子の司法警察員に対する各供述調書(謄本)によると、○○病院医師Bが被害者であり、本件被害品は同病院検査室に保管されていたことが認められ、

(ハ)の点については、なるほどA子と少年の司法警察員及び検察官に対する各供述調書を対比すると、本犯であるA子の供述内容に記憶の不正確さがあり犯行日時にくい違いは認められるが、A子は一月中旬頃から同月二九日頃までの間において、同棲中の少年から依頼をうけて同女の勤務する○○病院の検査室から別紙押収物目録記載の試薬等を窃取するに至つたことを認めているのであつて、同女はすでに当裁判所において審判を受けて調査官の試験観察中であり、

以上の各事実を総合すれば、別紙非行事実(一)の窃盗教唆は十分認められる。

そうすると、本件再送致は少年法四五条五号但書の要件を欠くことになる。

四  そこで、少年法四五条五号但書の要件を欠く再送致事件の取扱いについて考えるに、家庭裁判所の逆送決定の起訴強制の拘束力は刑事処分相当という刑事政策的判断の面に限られ、犯罪の嫌疑の有無にまでは及ばないと解すべきであるから公訴維持の責任者である検察官の公訴を提起するに足りる嫌疑がないとの意向を無視してまで起訴を強制することは相当でない。従つて家庭裁判所として、なお十分犯罪の嫌疑を認めうると判断しても、保護事件として事件を終結させることが妥当である。

よつて、当裁判所は本件再送致事件につき検察官の判断を尊重し再度の逆送決定をせず、また保護事件としても本件再送致事件と関連ある別紙非行事実(二)の事件が現在公判係属中であるから、少年を審判に付するのは相当でなく、刑事裁判の結果に委ねるのが適当であり、本件につき審判を開始しないこととする。

よつて、少年法一九条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 三村健治)

(別紙)

非行事実

(一) 窃盗数唆保護事件(昭和五六年少第二五七号)

少年は、昭和五六年一月二五日頃の午後九時頃大分市○○町×組○○荘×階×号室においてA子に対し「エーテルを持つて帰つてくれ」、更に同月二七日午後九時頃前記場所において同女に対し「毒薬を作りたいので試薬がいる。病院の検査室の硫酸と、NとPのついた試薬を盗つてきてくれ」などと申し向けて同女に窃盗の決意をさせ、同月二七日頃から同月二九日頃までの間数回にわたり同女が勤務する大分市○△町×丁目×番××号○○病院検査室において、同病院長所有にかかるエーテル、硫酸など試薬一〇点及びピペツト一本(時価合計三、七四〇円相当)を窃取させて窃盗の教唆をしたものである。

(二) 恐喝未遂保護事件(昭和五六年少第二四六号)

少年は、金融業○○商事ことDに喫茶店経営資金の借受申込をしていたが約束の借受金額が順次削られ喫茶店経営資金に充当出来なくなり破談となつたことに立腹し、同人から金員を喝取しようと企て、昭和五六年一月三一日午前三時頃大分市○○×組○○アパートA子方居室において、「本日三一日正午迄旧札ニテ現金一億円ヲ用意セヨ。正午ニ二二―七二七六へ連絡スル。万一要求条件ノ無視及警察等ニ通告シタ場合家屋ヲ爆破シ近親者ヲ殺害スル、冗談ト思ウナ大惨事ノ起キヌヨウ努力セヨ、無限。」と記載した書面を作成し、別府市○○××組○○商事玄関先の年乳受内に置いて金員を要求し、更に同日午後零時三〇分頃から午後四時五三分までの間前後六回にわたりA子を通してDに架電し、「今日のことはどうなつているの、半分くらい揃うか。後で電話する」などと申し向け、同人をして右要求に応じないときは家屋を爆破され、近親者を殺害されるなどの危害が及ぶかも知れない不安と恐怖感を抱かせ、よつて同人から金員を喝取しようとしたが、電話の逆探知により急行した警察官に職務質問され、その目的を遂げなかつたものである。

押収物目録(昭和五六年押第四九号)

符号

品名

数量

五〇〇ミリリツトル瓶入「エーテル」名の薬品様のもの

一本

五〇〇グラム瓶入「硫酸」    〃

二五グラム瓶入「カリウム」   〃

二五グラム瓶入「ピクリン酸」  〃

五〇〇グラム瓶入「水銀」    〃

試験管入「メタノル」      〃

〃   「リン酸化ナトリウム」 〃

〃   「硫酸アンモニウム」  〃

〃   「水酸化カリウム」   〃

一〇

〃   「ヘモキツト」     〃

一一

ガラスコツプ

一個

一二

ピペツト

一本

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